latfiheの断面図

考えごとの成果を書きます。

どちらが上か決まらないときもある

 私たちはものを考えるとき、比較することを頻繫にしています。ものの大きさ、時間の長さ、人数など比較される項目はたくさんあります。一方で、比較しても答えが決まらないような状況も多いです。例えば、「翻車魚」と「鬼頭魚」のどちらが読むのが難しい漢字でしょうか。織田信長徳川家康はどちらの方が重要な人物でしょうか。

 しかし、漢字の難しさや、人物の重要さといったものに対しても、なんとか上下関係を生み出そうとすることがよくあります。漢検一級の漢字は三級の漢字より難しいとか、参考書で★が3つ付いている人名は★1つより重要とかです。これは、「難しさ」や「重要さ」を、「大きさ」や「数」といったものと同様に取り扱っていると捉えることができます。

 こんなことをする理由は、私たちが「量」や「数」を使ってものを考えるのが得意だからではないでしょうか。水の量とか人の数とかについて考える能力を、より抽象的な概念に応用しているのかもしれません。とはいえやはりこれには少し無理があって、本当に「難しさ」という量があるのだとしたら、どちらが難しいか定まらないといったことは起こらないはずです。*1

 なんとかして、どちらが上か定めることができないような概念を、「どちらが上か定まらない」という性質を壊さずに取り扱うことはできないでしょうか。別に答えを提案できるわけではないですが、*2数学の授業で気になる話を聞いたので紹介します。*3二つの要素を取り出して比較したら、必ずどちらが上か定まる(または全く同じ)ような比較基準をもつ集合のことを、全順序集合と呼ぶそうです。*4水の量や人の数など、必ずどちらが上か定まるようなものは全順序を使ってうまく表せるでしょう。定まらないようなものを全順序を使って表現しようとすると無理が出てしまうというのが、先ほどの例から読み取れることかもしれません。

 ウィキペディア*5を読み進めると、私たちが普段使っている数と全順序の関わりが書いてあります。全順序集合の中でも、いくらでも大きい(いくらでも上の)要素があるようなものは、私たちが日ごろ使っている整数や有理数に一致するそうです。*6すき間があるなら整数、間が詰まっているなら有理数です。物理とか、経済とか、身の回りの現象を数学を使って理解しようとする人たちは、整数や有理数(や実数)*7をよく使って世界にあるものを表しています。つまり、全順序、どちらが上か決まるような基準をつかっているということです。確かに物理で主に取り扱われている、時間とか、位置とか、重さとかの概念は、どれもはっきりと比較することができます。

 逆に、比較することができないようなものはうまく表すことができないことになります。しかし、世界はそういうものだらけなはずです。難しさのことも、重要さのこともよく分からないことになってしまいます。数学の概念としては、全順序集合はいろいろな集合の一部でしかなく、そうでない集合の特徴も調べられています。そういうものをうまく使って世の中のものを表現できたら、もしかするとより多くのものを深く理解することができるかもしれません。難しいか。

*1:難しさの差が小さいからどちらが難しいか分からないということではないか、という考えもあると思います。絶対そうではないと言い切ることはできないのですが、世の中にいろいろな人がいて、いろいろなことができたりできなかったりする、という複雑な状況を、ひとつの量に落とし込むなんて無理があると考える方が自然だと感じています。

*2:なのでこの文章はすっきりしない感じで終わります。

*3:こういうことに詳しいわけではないのでお手柔らかにお願いします。

*4:細かく説明すると、「クラスの人」のような比較対象のものの集まりを「集合」、「身長が大きい」「体重が重い」といった比較項目を「二項関係」と呼び、必ずどちらが上か定まる二項関係のことを「全順序」というそうです。(他にもいくつか条件があります)

*5:全順序 - Wikipedia

*6:本当は、そういう集合のうち一番シンプルなものが整数や有理数に一致します。また、この「一致」の概念もちゃんと勉強すると長くなるやつです。

*7:と、その組み合わせ