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考えごとの成果を書きます。

納得するとはどういうことか(2)

 納得の話の第二話です。前回は、僕が考えている問題がどんなものかを説明しただけでした。今回は、この問題が悩むに値する、重要な問題であると思う理由を説明します。

なぜ重要なのか

 第一の重要性は、納得感が「正しさ」*1の指標として使われていることです。*2僕たちは納得がいくもののことを正しいと感じます。それはそうだと思ってもらえると思います。そして、何が正しいかを決める感覚がどんなときに引き起こされるかは、みなさんも知りたいと思います。

 さらに、一度正しいと思ったことは頭の中にストックされて、以後はいちいち同じ思考をくり返さなくても事実として扱えるようになります。「信じる」ってこういうことだと思います。この機能は、考えなければならないことを節約し、使える道具を増やしてくれる*3もので、僕たちの役にとても立っています。その人にとって何が正しいのかを決め、信じられるものを作るというのが、納得感の重要な役割です。

 せっかくなので例を挙げてみます。数学を教えるアルバイトで出会ったのですが、「背理法*4が納得いかない人がいます。背理法は(少なくとも、その時出てきた数学の問題に適用する限りでは)正しいです。しかし、その正しさを感じ取れる人とそうでない人がいるのです。そして正しいと思えた人は、それ以降思考に負担をかけずに背理法を使えるようになります。なぜそのような差が生まれてしまうのかは、やはり重要な問題だと思います。

 ここでひとつ注意点です。前回僕は納得感を引き起こすものが何なのかが問題だ、と書きました。しかし今書いたことを読んで、「正しさが納得感を引き起こす」のが答えじゃないかと思ったかもしれません。そういうことが言いたいんじゃないよと少し説明させてください。非常に言葉で表現しづらいのですが、上に書いたことで言いたいのは、納得感を感じたとき、心に浮かぶものが正しさであるということです。難しいのは、ある感覚を引き起こすものと、それを感じたときに心に浮かぶものを、同じ言葉で呼ぶことが多いところです。例えば、温度の感覚の場合、熱いものに触れると、細胞が刺激され、熱さを感じます。言うなれば、「物体の熱さが心の中の熱さを引き起こしている」*5という状況です。両者を区別して認識するのは難しいですが、中間に感覚が刺激されるというプロセスが挟まっていることを意識すれば、これらは別物であるという気がしてくるのではないでしょうか。*6僕が追い求めているのは、物体の熱さにあたるものの方です。

 ややこしい話が挟まってしまいましたが、納得感の重要性の話に戻ります。第二の重要性は、納得感は僕たちの思考のスイッチになっているということです。分からないことがあると、僕たちの思考は働き始め、納得がいったら思考は止まります。僕たちの思考能力は素晴らしいものですが、そもそも働かせられなければ宝の持ち腐れです。納得感が負っている責任は重大です。

 皆さんにその重大さを実感してもらうために、納得感の思考のスイッチとしての機能がうまく働いていないとどうなるか考えてみます。第一のパターンは、考えるべき時なのに納得がいってしまう場合です。「分かった気になってしまう」とか、「だまされる」とかはこの状況なのではないでしょうか。どちらも、本当はもっとよく考えるべきなのに、納得がいって思考が落ち着いてしまうという状況です。*7

 もうひとつは、必要がないのに、納得がいかなくて考えてしまう場合です。説明を受けたりしたときに「分からない」のはこの状態ではないでしょうか。本当は正しいことを言われているのに、そうは思えないときもありますよね。これらをまとめると、納得感は私たちに思考をすべきときを教えてくれる存在だといえます。何が納得を引き起こすのかという問題は、私たちの思考はどんなときに働くようにできているのかという問題でもあります。

 

 今回はこれくらいで。納得感は、私たちの思考という機能が役に立つものであるためにとても重要だとまとめられそうです。次回は、少しだけ納得の正体に迫るような記事を予定しています。感想・コメントなどお待ちしています。

 

*1:いろいろな正しさがあると思います。しかし、納得感に対応しているのはそれらの周辺にぼんやりと広がる概念です。そのため、ここで正しさの中身をはっきりさせることはしません。

*2:他の使われ方もあります。前回記事のエッグチーズバーガーの例は、何が正しいとかいう話ではありませんでした。

*3:納得していなくても、繰り返し同じことをしていればやがて何も考えずにそれをするようになる、というのも使える道具の増やし方のひとつです。数学の定理とか、けっこうそのパターンあると思います。

*4:ある命題が真であることを、その命題の否定が他の事実と矛盾するということから示すテクニック

*5:人間が観測しているのは心の中の方だけなのだから、物体の方が存在する証拠などないじゃないか、という考え方もあるとかないとか。ううむ。

*6:実は温度の場合なら、体の外で起こっている現象と頭の中で起こっている現象の違いです、と言ってしまえば済むことです。しかし、納得感の場合だと、すべて頭の中に入ってしまっているので、こうはいきません。(アイデア:実は納得感の場合はこの両者の区別などなくて、意識が持つ何らかの性質によって差があるような気がしてしまっているだけなのではないか)

*7:納得してスイッチが切れてしまって思考が働かないのとは別に、ボーッとしてしまって思考が働かないのもひとつのパターンといえそうです。納得がいく/いかないの軸だけで語りきれない思考の振る舞いはやはり多いです。